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3Dプリンターは何でも作れる魔法の箱?

photo by Keith Kissel

生産管理 設計/製造/生産

これまでプロフェッショナルな一部ユーザーのみが利用すると思われていた3Dプリンターが、ここにきて一般の家庭にも普及の兆しを見せています。その理由には、3Dプリンター本体の価格が10万円を切るなど安価になったこと、3Dデータが身近になったことなどがあります。

安価な3Dプリンターの登場で家庭にも広がるモノづくり

最近では「3Dプリンター」の言葉を目にする機会が増えたばかりでなく、ビックカメラやヤマダ電機などの家電量販店で、3Dプリンターの実機を目にできるようになりました。ノズルが動いて出力する様子を間近に見たことがある方も、多いのではないでしょうか。

IT専門調査会社IDC Japanの発表によると、2014年の3Dプリンター本体の国内出荷台数は9,927台で前年比成長率は157.1%。その内訳は本体価格50万円未満の「デスクトップ3Dプリンター」が7,750台、本体価格50万円以上のプロフェッショナル3Dプリンターが2,177台とのことです。(出典:IDC Japanプレスリリース「国内3Dプリンター市場 2014年の実績と2021年までの予測を発表」(2015年6月23日)
家庭でも利用可能なデスクトップ3Dプリンターが一気に普及したことがうかがえます。

そして、2015年1月に発売開始されたデアゴスティーニ・ジャパンの雑誌「週刊マイ3Dプリンター」は、「創刊号の販売は約4万5千部、その内、完成は約2万台を予定しております」(同社広報)とのこと。55週かけて分割して届くパーツを組み立てると、3Dプリンターが完成するパートワークの方式で、年明けには2万台を超える3Dプリンターが家庭に普及することになります。

これだけの数の3Dプリンターが家庭に普及すると、日本のモノづくりについての考えが、ガラリと変わってしまうかもしれません。

様々な分野で活用される3Dプリンター

3Dプリンターの用途は、これまでプロユースがほとんど。主に産業分野の試作品、建築模型の製作などで活用されていました。その後、素材の多様化、安価な3Dプリンターの登場などにより、利用の幅は急激に広がっています。

ホビーユースではフィギュア、アクセサリーなどを製作する一般ユーザーも増えています。また、医療の分野では、リアルな素材を用いた臓器モデルや人工血管の研究なども進められています。その他、食品を出力するフードプリンターが登場しているほか、海外では、自動車や家を出力する試みまで行われています。

個人的には、外れてしまった棚の取っ手を補強するとか、子どもがなくしたオモチャのパーツを補うとか、日曜大工的な用途で使ってみたいと考えています。

また、国内でも都市部には「FabLab(ファブラボ)」と呼ばれる、工作機械を市民が利用できる場所ができはじめ、3Dプリンターが増えています。子ども向けのワークショップが開催されるなど、モノづくりが身近になり、教育での活用も検討されはじめています。

市民工房のネットワーク「FabLab」

3Dプリンターの様々な出力方式とその仕組み

photo by John Abella

3Dプリンターには、実は様々な出力方法があり、扱える素材もそれぞれ異なります。価格帯も違うため、目的や用途によって使い分けられているのです。

家庭での普及が進むFDM方式

現在、もっとも普及しているのは安価な「FDM」という方式。素材にはABSやPLAなどの樹脂素材を使用します。糸状にした樹脂を高温で溶かして、ノズルから射出しながら造形していく仕組みです。射出された樹脂は冷えて固まり、層を作るように下から順に造形されていきます。FDMを日本語で言うと、ちょっと難しいですが「熱溶解積層法」となります。

FDM方式の3Dプリンターが安価な理由は、この方式の特許が2009年に切れたため。そのおかげで国外、国内でもベンチャーなど様々な企業が参入して、3Dプリンターを製造・販売するようになりました。現在では、5万円前後で購入できる製品も登場しています。

家庭向けのFDM方式3Dプリンターは、積層の厚みが0.1mmなど。そのため、近づいて見ると、形状によっては「積層痕」が気になる場合があります。精密な加工や大量生産には向かないことから、主に試作品やホビーユースなどで利用されています。また、基本的には樹脂の色がそのまま出力されるため、必要なら後工程で着色することになります。

精密な造形が行える光造形方式

より精密な造形を行いたいなら、光造形の方式があります。機種によっては数十ミクロンの精密な造形ができるため、工業製品やフィギュアの原型などにも活用されます。液状にした樹脂のプールにレーザー光線を当てて、光が当たった部分が固まる方式です。価格帯は数百万~数千万円なので、プロフェッショナルな利用となります。

フルカラーの出力ができる粉末石膏積層方式

最近では、記念写真を撮るように、人物やペットの3Dフィギュアなどをフルカラー出力するサービスがあります。こうしたサービスで使用されるのが、粉末石膏積層方式です。粉末石膏を接着剤で固めながら造形する方式で、固めると同時に表面にインクジェットプリンターで着色していきます。こちらも本体の価格は数百万円からとなり、家庭向けではありません。

そのほかにも、金属の造形が可能な「粉末焼結積層方式」、光硬化性の樹脂を造形テープルに吹き付ける「インクジェット粉末積層」など、様々な出力方式が、用途に応じて利用できます。

3Dプリンターもデータなければただの箱?

3Dプリンターは、何でも作れる魔法の箱のように言われがちですが、出力するには元となる3Dデータが必要です。作成するには、3D CADや3DCGなどの3Dモデリングソフトを用います。

建築や工業製品の設計など、数値を厳密に決めて造形する際には、3D CADソフト。フィギュアなど柔らかな形状を表現したいときには3DCGソフトを用いることになります。

質の高いデザインと生産性向上を実現する「AUTODESK AUTOCAD 2016」

また、最近では人物のフィギュアを製作したり、文化財を3Dデータとしてアーカイブしたりする目的で、「3Dスキャナー」を用いることもあります。複数台のカメラを用いて、全方向からのイメージを一気に撮る方法や、ハンディタイプのスキャナーを使って周囲を回りながら測位する方法などがあります。ただし、3Dスキャンしたデータには、影の部分に抜けがあったりするため、そのまま出力データとして使用することはできず、いったん編集の作業が必要となるのです。

自分でデータを作ることができなくても、立体作品を出力して楽しみたいという場合には、3Dデータの共有サイトが利用できます。フィギュアやアート作品を出力して楽しんだり、スマホケースなど役立つ日用品を出力して利用したりすることも可能です。誰でもインターネットからダウンロードでき、3Dデータを手軽に扱えるようになっています。また、手元に3Dプリンターがない場合には、素材を選んで出力した作品を手元に届けてもらうこともできます。

最近では無料の3Dモデリングソフトが登場し、一般にも3D CGを作成するユーザーが増えるなど、3Dデータは従来より身近なものとなっていると言えます。

3Dプリントプロダクトのマーケットプレイス「RINKAK」

これからの3Dプリンターは?

現在家庭に普及しているFDM方式のプリンターで造形できるのは、基本的には単色です。しかし、今後はフルカラー出力が可能なプリンターの製品化も予定されています。

そして、プリンター本体のコンパクト化も進んでいます。仕事机の片隅に置くことができ、日本の住環境にマッチした製品と言えるでしょう。また、3Dプリンターメーカーのボンサイラボは、素材を溶融する温度を下げて、子どもでも扱いやすい「BS TOY」の製品化を予定しています。

今後は、用途や家庭環境に合わせて製品を選べるようになり、一般家庭にもより普及が進むと考えられます。また、3Dプリンターや3Dデータが身近な存在となることで、モノづくりに興味を持つ若い世代が増えることが期待されます。

この記事のライター
池田 利夫(いけだ としお)

1970年山口県生まれ。1997年に株式会社ジャムハウスを設立。同社の代表取締役として、IT系、教育系書籍の制作、出版を行う。

株式会社ジャムハウスの近刊書籍
  • 「学んで作る! 一太郎2015使いこなしガイド」
  • 「次世代ファイナンス クラウドファンディングで世界を変えよう!」
  • 「タブレットは紙に勝てるのかタブレット時代の教育」
  • 「月1000円以下で使える! SIMフリースマホ入門」等

ライター

  • 池田 利夫(いけだ としお)
    IT系、教育系書籍を扱う出版社の代表。
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