「ロボット」というと、マンガや映画の世界に登場する夢の話、あるいは、まだまだ実用化は遠い未来、と考えていませんか。もし、そうだとしたら、大きなチャンスを逃してしまうかもしれません。特に中小企業にとってロボットは、人手不足を補ったり、新しい事業を開拓したりする救世主になるかもしれないのです。ロボット、それは、いま取り組むべきテーマです。
鉄人28号、鉄腕アトム、マジンガーZ、ガンダム、エヴァンゲリオン......。日本人は、昔からロボットが大好きでした。しかし、いずれもマンガやSFの世界の話。リアルな世界でロボットが活躍するのは、まだまだ遠い未来の話だというのが、多くの人の常識でしょう。
しかし、どうもその未来は、予想以上に早くやってきそうです。現実に、私達のまわりでは「ロボット」の活躍がはじまっています。ソフトバンクのPepperはCMにも登場する人気者です。iRobotのルンバは、お掃除ロボットとしての地位を確立しています。ホンダのASIMOも、さまざまなイベントで活躍しています。
ただし、多くの中小企業は、「こうしたロボットを開発できるのは、一部の大企業やIT先端企業だけ。ウチには関係ない」と考えていると思います。しかし、それは大きな誤解です。
2014年9月、経済産業省は「ロボットによる新たな産業革命について」という資料を公開しています。ここには、「中小企業へのロボット導入を後押しする」と、はっきり書かれています。これはどういうことでしょうか? 中小企業がPepperやルンバ、ASIMOのようなロボットを開発することを支援する、という意味でしょうか。次に、そのあたりの事情を説明します。
まずは、次のグラフをご覧ください。これは経済産業省が作成したロボット市場を予測したグラフです。
【図1】日本のロボット市場予想。経産省の資料の19ページ
これを見ると、2015年には約1.6兆円なのが、2020年には2.9兆円となり、2035年には約10兆円に成長すると予想されています。
さらに注目したいのは、その内訳です。2015年には、製造分野の割合がトップです。製造分野とは、具体的には「産業用ロボット」の分野です。工場のラインで機械を組み立てたり、不良品をチェックしたりする機械をイメージするとよいと思います。こうした産業用ロボットは、一般消費者の眼に触れる機会はほとんどありませんが、大企業の工場を中心に、ごく一般的に導入されていて、2035年向けて、さらに拡大すると予想されています。
しかし、それ以上に急激に伸びると予想されているのが「サービス分野」です。サービス分野とは、Pepperやルンバのような一般家庭向けロボット、医療、介護・福祉、警備、食品産業などの分野です。2015年はまだわずかですが、2035年には、約10兆円のうちの半分をサービス分野が占めると予想されているのです。
サービス分野でのロボット活用として、今後、期待されているの介護分野です。いうまでもなく、日本は世界に類を見ない超高齢化社会に突入しています。すでに日本は、4人に1人が65歳以上です。これが2035年には3人に1人、2060年には2.5人に1人になると推計されています(注1)。少ない人手でどうやって多くの高齢者を介護するのか。そう考えたとき、ロボットが活用されるのは、ごく自然な流れでしょう。
たとえば、サイバーダインは、介護支援者の負担を軽減する腰に装着するタイプの製品をすでに発売しています。また、RT.ワークスも、高齢者の自立歩行を支援する製品をリリースしています。そのほかにも、排泄支援や入浴支援、見守り支援など、さまざまな種類の介護ロボットが開発されています。
その他の分野でも、ロボット活用は始まっています。医療分野では、手術支援や調剤支援をするロボットが開発されています。たとえば、「ダヴィンチ(da Vinci, インテュイティブサージカル)」という手術支援ロボットは、すでに世界40カ国以上で導入されています。
警備分野では、施設を自動巡回する警備ロボットや、顔認証機能で特定人物を発見し、通報するロボットが開発されています。インフラ分野では、橋梁やトンネルを自動点検するロボットがありますし、人間が活動できない環境下で人間の代わりに作業したり、人間を補助して負荷を軽減したりするロボットも開発されています。
ここまで見たように、ロボット市場が、今後急速に成長するのは間違いありません。ただ、それでも「ウチには関係ない」と考える中小企業は多いと思います。
しかし、少子高齢化は中小企業にとっても深刻な問題です。今後、熟練の職人はもちろん、若い働き手も確実に不足するでしょう。不足する労働力をロボットで補ったり、ロボットを導入して生産性を高められたりできるなら、それに越したことはありません。
実際に、国や自治体による中小企業向けのロボット導入支援も活発です。たとえば、前述の「ロボットによる新たな産業革命(経済産業省)」の中では、10万円程度の安価なロボットを開発し、制度を整備することで、中小企業でのロボット導入を推進することが明記されています。
また、2015年度からは、中小企業向けにロボット導入を補助する事業(日本ロボット工業会)も始まっています。これは、ロボットを導入する際に、費用の最大3分の2が助成される制度です。
もちろん、中小企業にはロボット市場に参入するチャンスも広がっています。前述したように、今後、急速に伸びるのはサービス分野です。介護・福祉、医療、警備、食品産業、物流、インフラ......などの分野では、産業用の大型ロボットではなく、小回りがきいて多様なニーズに対応できる小型・低価格なロボットが必要とされています。それこそ、高い技術力とアイデアを持つ中小企業が、本領を発揮できる分野ではないでしょうか。
国・自治体も中小企業のロボット開発を支援しています。たとえば、東京都立産業技術センターは、2015年から2020年にかけて「ロボット産業活性化事業」を実施し、中小企業のロボット開発における技術開発、事業化支援、人材育成などに取り組んでいます。
いま話題になっているキーワードに「インダストリー4.0」(注2)があります。これは、ドイツの国家プロジェクトで、工場の設備にセンサーを組み込み、工場と工場をつないで生産性を劇的に向上させようとする取り組みです。同様に、米国でも産業機器をインターネットでつなぎ、情報を活用して生産性を上げる「インダストリアル・インターネット」という取り組みが始まっています。
こうしたドイツ、アメリカの動きに対し、日本は大きく遅れをとっていると言われています。このため、今後、日本企業でもインダストリー4.0的な取り組みが本格化すると思います。その中で、日本が得意とするロボットが重要な役割を果たすかもしれません。
いずれにしても、ロボットは、もはや夢の世界の存在ではありません。労働力不足を補う現実的な手段であり、今後、国も巻き込んで急速に成長する巨大な市場でもあります。多くの中小企業にとって、この変化は大きなチャンスです。ぜひ、本記事をきっかけに、このチャンスをいかしていただければと思います。
注2:「インダストリー4.0」には「第4次産業革命」の意味がある。第1次は18世紀から19世紀にかけて起きた水力や蒸気機関による工場の機械化、第2次は19世紀後半の電力活用、第3次は20世紀後半の工場の自動制御による生産工程の自動化を指す。
1964年愛媛県生まれ。1993年に独立後、フリーランスのテクニカルライターとして、Webや雑誌のIT系記事、書籍執筆、企業取材、広告記事など、ITに関連した"書く仕事"を続けている。
「Word」分野のMicrosoft MVPで、オールアバウトの「Wordの使い方」「パソコンソフト」のガイドも担当。