2016年(平成28年)6月6日に、平成27年度補正分の「ものづくり・商業・サービス展開支援補助金」(以下「ものづくり補助金」)の採択結果が発表されました。応募件数は総数2万4011件で、うち7729件が採択されました。
今年4年目を迎えた「ものづくり補助金」、この採択率は、例年30パーセント台後半から40パーセント台前半で推移してきました。ところが、今回は約32パーセントと低くなりました。もともと人気の高い補助金ですが、採択競争はさらに激しさを増しつつあるといえるでしょう。
「ものづくり補助金」における採択の可否は、申請時に提出する「事業計画書」に対する判定で決まり、補助金額は事業終了後の「確定検査」の結果によって判断されます。この2点を中心に、ものづくり補助金の採択のポイントをお伝えさせていただきます。
予算 | 申請件数 | 採択件数 | 採択率 | |
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平成24年度補正予算 | 1,007億円 | 23,971 | 10,516 | 約43% |
平成25年度補正予算 | 1,400億円 | 36,917 | 14,431 | 約39% |
平成26年度補正予算 | 1,020億円 | 30,478 | 13,134 | 約43% |
平成27年度補正予算 | 1,021億円 | 24,011 | 7,729 | 約32% |
4年間合計 | - | 115,377 | 45,810 | 約39.7% |
補助事業として採択されるためには、公募要領に記された条件をきちんと満たした事業計画であることが、大前提となります。
ところが実際には、補助対象に当たらない事業や認められない経費など、公募要領の理解が不十分で、不備や不足の目立つ事業計画書が毎回数多く提出されています。前述の通り、競争率の高い「ものづくり補助金」の審査においては、そうした不備のある申請は最初に落とされてしまうことになります。
公募要領を精読して内容を把握するのはもちろん、不明点は地域事務局や認定支援機関に問い合わせて解決しておきましょう。また、すでに補助金を申請した経験がある経営者に話を聞いてみるのも有効です。
事業計画書の記述で、特に間違いやすいのは「補助対象事業の類型選択」です。
前回の公募では、補助対象事業として「一般型」「小規模型」「高度生産向上型」の3タイプが挙げられ、それぞれ補助上限額や設備投資の必要・不要、対象経費などが異なっていました。最適な類型はどれなのか?選択には十分注意し、申請書類が完成したら必ず認定支援機関に確認してもらいましょう。
「ものづくり補助金」の公募内容は、毎年少しずつ変更があります。
しかしながら、採択の可否を決めるポイントに大きな変化はありません。
それは、その事業計画における「革新性」です。
まず、申請にあたっては、あなたの事業計画を革新的な試作品開発――革新性に富んだものづくりとしてアピールしなければなりません。そのために効果的な方策の1つが「技術・アイデアに焦点を当てたストーリーづくり」です。
あなたが構想している事業計画を、下図の流れに沿って構成してみましょう。
「ものづくり補助金」における「革新性」とは、「技術やアイデア」が、同業他社でも一般的ではない、新しい発想・役務を取り入れたものでなければなりません。
この点に留意しながら、事業全体の革新性をアピールしていきましょう。
ここで重要になるのは、「各課題の明確化」と「そこから生まれる解決策の革新性」です。裏返せば、この2つさえあれば、事業は必ずしも純粋な新製品開発でなくとも採択される可能性は十分あります。
既にある製品の完成度向上を目指すマイナーチェンジや試作品を事業化するための改良でも、技術的課題と革新性が明確ならば、チャレンジする価値はあるはずです。
もう1つの採択ポイントとして重要なのが、ビジネスとしての「実現性」です。
試作品が完成して終わりではなく、その試作品が新製品として新しい市場を開拓し、競合優位を獲得するなど、ビジネスとして成立させることを審査員は期待しています。それも補助金の費用対効果が大きくなるような計画、すなわち「より利益の出る事業計画書」が望ましいのです。
「お手盛り」は困りますが、市場調査などのデータも利用しながら、できるだけ具体的な言葉と定量的な数字で提示してください。もちろん売上計画も可能なかぎり具体的に書くと良いでしょう。
また、「ものづくり補助金」の公募要領では、「その年のキーワード」ともいうべきフレーズが加点要素などの形で織り込まれることがあります。平成27年度補正分「ものづくり補助金」の公募要領では、「IoT」と「TPP」という流行りのキーワードが登場しました。
このように、その年のキーワードを意識して事業計画書に反映させることも有効です。
「ものづくり補助金」の審査は、相対的な評価で行われているといわれます。
つまり、あなたが要件を満たした質の高い事業計画書を申請しても、より優れた事業計画書が申請されれば、あなたの申請は不採択の可能性が高まります。少しでも多くの点数を稼ぐ必要があるのです。よって、事業計画書の内容はもちろん、書き方にも工夫が必要となります。
申請書の審査は外部有識者からなる審査委員会によって審査されます。しかし、審査員1人ひとりは、あらゆる技術分野に詳しいわけではありません。
そのため専門用語や業界用語を多用すると、内容を正しく評価してもらえない怖れがあります。基本的には専門用語は使わず、業界外の人に説明するつもりで記入しましょう。
事業計画をわかりやすく伝えるため、図版や写真など、ビジュアルを使うのも有効な方法の1つです。
申請書類は枚数が増えても、それを理由に減点されることはありません。必要を感じたら図版や写真などを積極的に添付して、わかりやすく印象的に伝えるように工夫しましょう。
実は、応募申請が採択されたタイミングで補助金額が確定するわけではありません。
事務局が申請内容のとおりに補助事業が行われたかを調べ、経費の支出なども適正か検査し、確認して、事業が適正に行われたと認めれば補助金額が確定します。これが確定検査です。
確定検査を行う事務局は、補助金が正確かつ公平に、経済的に使われているか検査します。もし当初の事業目的や計画から逸脱した使い方が発見されれば、予定の「交付決定額」の一部もしくは全額が減額される可能性もあります。
ここは準備よく検査に対応し、適正な補助事業だと認めてもらわなければなりません。
実際の確定検査の内容は、事業終了後に事業者が提出する「補助事業完了報告書」と「使用経費に関する支払証拠書類」の内容確認、そして必要に応じて行われる現地調査やヒアリングです。
事務局によるチェックでは、「補助金の事業目的に合った事業だったか」、「採択した補助事業は計画とおりに行われたか」、「当初予定からの乖離はないか」などが検査のポイントとなります。そのため、事業者は早い段階から対応の準備を進めておく必要があります。
確定検査の対象となる、「補助事業完了報告書」と使用経費に関する「支払証拠書類」の提出は、当然ながら補助事業の終了後です。しかし、これらの書類、特に後者の支払証拠書類は、補助事業の開始(=交付決定日)時から意識して集めていかないと後の対応が難しくなります。事業の実施前から準備は整えておきましょう。
確定検査のために必要となる「支払証拠書類」とは、下の図に挙げた6種類です。
仕様書 | 補助事業に必要な商品・サービス類の見積書を取るため取引先へ提出する書類 |
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見積書 | 仕様書に基づく見積書。複数の取引先から見積もりを取り(相見積)比較しすべて保存 |
発注書 | 見積書を比較して最も安価な会社を選んで発注書(契約書)を送り、控えを保存 |
納品書 | 取引先からの納品時に受領する書類。発注の仕様と照合・検証の上、受け取る |
請求書 | 納品後、取引先から発行される請求書 |
領収書(入金確認書) | 請求に対して支払い後、取引先が発行する領収書 |
これら支払証拠書類は、補助事業の実施期間(交付決定日~事業終了日)内のものしか認められません。交付決定前や事業終了後に発注したもの、支払ったものは補助対象外となり、補助金の対象とならないので注意が必要です。
補助事業に関わるものは、必ず交付決定日以降に発注し、終了日前に支払い(領収書の取得)を済ませてください。
現時点では、まだ次年度の新しい「ものづくり補助金」の公募要領は発表されていません。昨年と同じスケジュールなら、年末近くに経済産業省が予算の概算要求を発表し、その中で「ものづくり補助金」の予算規模が発表されることになります。そして、公募は年明け3月頃までに始まるでしょう。残された時間はそれほど多くありません。
まずは自社の強みと事業課題を洗いだし、事業計画を具体的に構想してみてはいかがでしょうか。
多くの皆さんのチャレンジに期待しています。
1958年大分県生まれ。1986年に独立以来、ライターとしてWebや雑誌の技術系記事、書籍執筆、企業取材、広告記事など、ITを中心とした技術系全般の取材・執筆を行っている。「月刊 CAD&CGマガジン」「月刊 建築知識」などに掲載。
特に建築系、製造系を問わずCAD、CG関連の記事制作を担当することが多い。